中学生の頃より30kg太った筆者にとって、エリーゼは「乗る」と言うよりも「闘う」と言う表現の方が正しかった。愛車スープラと同じ年式・色・価格帯にも関わらず、全く正反対のキャラクターを持つロータス・エリーゼ220スポーツの試乗記をお届けする。
イギリス紳士の椅子

食費を大いにかけた筆者の高級ボディを、エリーゼの中に詰め込むのには一苦労だ。アルミ製バスタブシャーシを採用しているエリーゼのサイドシルは高くて広い。ゆえに乗降性が悪く、体の柔軟性が求められるのだ。何とか体をねじ込んでシートに座ると、猫背の私には少々きつく感じるくらいシートが起きている。「イギリスのジェントルマンはこんな姿勢良く運転するのかぁ」とシートポジションを合わせる。やや重いクラッチペダルを踏み込み、キーを回す。スタートボタンを押すと、1.8リッター直4スーパーチャージャーの野太い排気音が聞こえてきた。
ある種のトレーニング

ギアを1速に入れてクラッチを繋いでいく。アイドリング発進ができるくらい低速でのパワーもある。クラッチ操作もしやすく、以前所有していた初代ダイハツ・コペンに似ているように感じた。内部機構が丸見えなスポーツレシオ6段マニュアルトランスミッションは、もちろん見た目もかっこいいのだが、何よりシフトフィーリングが良い。気持ち良いぐらいスパーンと入る。エリーゼにはパワステが付いていない。電動パワステに慣れ切った筆者の腕にはある種のトレーニングとなった。
5000回転から性格が変わる

低速トルクもあって扱いやすい印象を受けたエリーゼ220スポーツだが、5000回転付近から爆発したかのようにパワーが一気に盛り上がる。まるで後ろから蹴っ飛ばされたような、ワープしたかのようなその加速に思わず「この車やべぇ!!」と叫んでしまった。下道で2時間程エリーゼを走らせ、伊豆スカイラインに着いた。軽く流してみると私が車重を9%増やしたからなのか、ライトウェイト感は感じられなかった。しかし、狙ったラインをきちんとトレースでき、車を操る楽しさを十二分に堪能できた。乗り心地もお世辞にも良いとは言えないが、思っていたほど突き上げ感もなく、振動による疲れは感じられなかった。
セミの合唱をかき消す

オープンカーの良さは、より五感で車を楽しめる事だ。太陽の光や森の匂いを感じながら、車を走らせるのは快感そのものだ。エリーゼの幌を取るのは意外にも簡単。両側のロックを外して幌を卷き、二本のバーを抜き取って、トランクに入れるだけだ。オープンエアーで楽しむエリーゼは格別だ。セミの合唱をかき消すようなエギゾーストの快音は、当然幌を外した方が良く聞こえる。筆者にとって幌を外す一番のメリットは、乗降性の向上だ。屋根がない分乗り降りがしやすいので、関取になる一歩前の筆者にとっては一石二鳥だった。
試乗を終えて

今回の試乗は12時間・300kmに及んだのだが、帰って来る頃にはすでにヘトヘトになっていた。パワステのない車で、シートポジションが”ジェントルマン”だったので、ずっとトレーニング状態だったのだ。スープラに乗り換えて「車ってこんなに便利だったのか!」と感動したぐらいだ。「俺ってこんなにシート倒してたんだ」と思うくらい姿勢も良くなった。これほど運転だけに集中させるエリーゼには、フェラーリやランボルギーニとは似て非なる「独特の緊張感」があった。