2023年のジャパン・モビリティ・ショーでのホンダ・プレリュードのコンセプトの発表は、自動車業界において注目すべき出来事と言えるでしょう。このコンセプト車は、ホンダの三部敏弘社長によれば、将来のホンダの新たなクリエイションへの序曲と位置づけられています。具体的な詳細は発表時点では限定的で、ハイブリッドパワートレインが搭載されること以外にはあまり明らかにされていないようです。
プレリュードは、かつてホンダが1978年から2001年まで生産していたクーペモデルで、前輪駆動(FF)でした。このモデルはトヨタのセリカなどと競合し、90年代に特に注目を集めました。また、自動車業界の革新に貢献し、ホンダのラインナップにおいて特異な存在でした。
プレリュードのコンセプトが再び登場したことで、ホンダがスポーツクーペセグメントへの再参入を検討している可能性が高まります。自動車愛好者にとって、この新たなプレリュードがどのように実現するか、そしてハイブリッドテクノロジーをどのように組み込むかについて、今後の発表を待つ楽しみがあります。本稿ではそんなプレリュードの歴史を振り返っていきます。
1978-1982年 初代プレリュード

1978年11月24日に登場した初代プレリュードは、日本国内ではなく国外市場での販売が成功を収めました。約4年間で総生産台数は約31万3,000台で、そのうち約80%が日本国外向けに販売されました。
プレリュードは、当時のホンダの他のモデルであるシビックやアコードとは異なり、特にボディ剛性に重点を置いた構造を採用しました。モノコックボディに一体型のサブフレームを採用し、フロントピラーは2重構造になりました。サスペンションは前後ともにストラットを採用し、スプリングとダンパーの配置を工夫して滑らかなストロークを実現しました。特にフロントサスペンションはバンプステア領域を意図的に設定し、操縦応答性を高めました。
パワートレインには当初、アコードと共通のEK型エンジンが採用され、後に改良が重ねられて出力は進化しました(90→95→97PS)。
1980年4月25日にはマイナーチェンジが行われ、酸化触媒付CVCC-IIエンジンが採用され、ドライバビリティが向上しました。また、当初の2速オートマチックトランスミッションはオーバードライブ付の3速に変更されました。
さらに、初期型のプレリュードは「XR」と「XE」グレードにはコノリーレザーシートのオプションが用意され、日本国内で初めて電動サンルーフが標準装備されました(「E」と「T」を除く)。初期モデルでは鉄板のサンルーフが使用されましたが、中期モデル以降ではガラスサンルーフ(日本国外向けはアクリル樹脂製)が採用され、格納式サンシェードが備えられました。
1981年10月には最終的なマイナーチェンジが行われ、ダッシュボード、メーター類、クルーズコントロール、ナビゲーションコンピューターなどが変更されました。オーディオ装置もDINタイプに刷新され、最上級グレードである「XXR」にはベンチレーテッドディスクブレーキ、革シート、専用外装色などのオプションが用意されました。
1982-1987年 2代目 プレリュード

1982年11月26日に発売されたホンダ・プレリュードの2代目モデルは、フロントサスペンションにダブルウィッシュボーンを採用し、リトラクタブル・ヘッドライトと相まって、エンジンフードが先代よりも約80~100mm低く配置されました。リアサスペンションには長いリバースAアームを備えたストラットが採用され、特に独自の設計でした。リトラクタブル・ヘッドライトは開発段階では平行移動式が検討されましたが、生産型では回転式になりました。
この2代目プレリュードは、当時としては斬新なデザインで、広く車高の低いボディが女性にも受け入れられました。特に運転席側には助手席リクライニングノブが備えられ、「デートカー」という言葉が生まれました。また、オプションとして、日本初の4輪ABSである「4wA.L.B.」(ホンダではABSではなくALBと呼ばれていました)を「XX」と「XZ」グレード(5速MT車のみ)に設定しました。
エンジンとトランスミッションに関して、初期型から搭載されていたES型エンジンはCVキャブを2連で装着し、高圧縮比(9.4)による改良を経て、125PS(MT車、AT車は120PS)を発揮しました。エアクリーナーの配置を変更することでボンネットフードが低く配置されました。トランスミッションには5速MTとロックアップ機構を備えた4速ATの2種類が提供されました。このモデルは、ホンダ車初の速度制限を備えており、最高速度を180km/hに制限しました。
1987-1991年 3代目 プレリュード

1987年4月9日に登場したホンダ・プレリュードの3代目モデルは、これまでで最も技術的に進歩したものでした。先代モデルを継承しつつ、キープコンセプトなスタイルを採用。サスペンションに変更が加えられ、特にリアサスペンションが4輪ダブルウィッシュボーンとなりました。
エンジンは16バルブのDOHCモデル(PGM-FI仕様)と12バルブのSOHCモデル(CVデュアルキャブ仕様)の2つのバリエーションが存在しました。
この4代目プレリュードは、量産乗用車として世界初の機械式4WS(四輪操舵)を搭載した車種として注目されました。4WSは前輪が操舵されると、前輪のステアリングギアボックスからセンターシャフトを介してリアステアリングギアボックスに回転が伝えられ、後輪を操舵する仕組みです。このシステムにより、後輪の切れ角は前輪の舵角に応じて変化し、車の操縦性が向上しました。
1989年11月21日には、光軸を上げた固定式ヘッドライトを備えた「PRELUDE inx(インクス)」という派生車種が追加され、年齢層の高いユーザーをターゲットにしました。このモデルにはビスカスLSDや運転席SRSエアバッグが標準装備されたのが特徴で、これは歴代のプレリュードモデルとして初めてのことでした。
1991-1996年 4代目 プレリュード

1991年9月20日に販売が開始されたホンダ・プレリュードの4代目モデルは、先代とは対照的に新しいコンセプトを採用し、スペシャルティクーペからスポーツクーペへと生まれ変わりました。
新しいプレリュードは、全幅が1,765mmに拡大し、全長は4,440mmに短縮され、キャビンも小型化されました。これに伴い、初代から受け継いできたサンルーフはアウタースライド式に変更。また、先代で採用された4WS(四輪操舵)は、電動モータ駆動の電子制御式に変更されました。
インテリアも近未来的なデザインが採用され、バイザーレスのインパネが特徴でした。
この5代目プレリュードには、F22B型エンジンとH22A型エンジンの2つの異なるエンジンバリエーションが用意されました。日本国外のモデルには、アコードなどに搭載されたF20A型エンジンとアスコットイノーバに搭載されたH23A型エンジンが存在しました。
1993年9月のマイナーチェンジでは、ヘッドライト回りのデザインが変更され、後部座席中央の収納ボックスが廃止され、座席がフラット化され、乗車定員が5名に増加しました。また、サンルーフがオプションとなり、安全装備として運転席・助手席エアバッグやABSがオプションとして選択可能となりました。
4代目のホンダ・プレリュードには、F1(フォーミュラ1)の歴史との関わりが一部存在します。1990年代初頭、F1の主催者は各レーストラックにセーフティカーを配置することを義務付けました。1991年にF1が日本の鈴鹿サーキットで開幕した際、自動車メーカーはセーフティカーとして、スポーティなNSXではなく、ホンダ・プレリュードを指名しました。
1996-2001年 5代目 プレリュード

1996年11月7日に登場したホンダ・プレリュードの第5世代は、以前の路線に回帰し、スペシャリティクーペとしての特性を維持しながら、居住性を向上させました。外観の特徴として、縦に伸びるヘッドライトが特徴で、インパネも先代からの変更で、バイザーレスの近未来的なデザインから従来のスタイルに戻されました。サンルーフもオプションで提供されましたが、3代目以来のガラスサンルーフも復活しました。
内装の特徴として、シートに合成皮革の「カブロン」が使用され、一部のモデルには赤と黒のツートーン仕上げの内装が提供されました。後期モデルからは本皮シートも「Type S」のみに設定され、他のグレードのシート柄も変更されました。日本国外仕様では異なる内装オプションが提供され、車体色によって内装も異なる選択肢がありました。
このモデルでは、さまざまなエンジンが提供され、スポーツグレードの「Type S」と「SiR S spec」では特に強化されたエンジンが搭載され、最高出力が220PSに向上しました。さらに、一部のモデルにはATTS(左右駆動力分配システム)やビスカスLSDが搭載されました。また、新しい4速AT(Sマチック)が導入されました。
2001年6月にはインテグラのフルモデルチェンジに伴い、プレリュードの販売が終了しました。このモデルは日本国内で1万3924台が販売され、23年の歴史に幕を下ろしました。
洗練されたコンセプトカーで披露されたモダンなプレリュード

ジャパンモビリティショー2023にてお披露目となった新型プレリュードは、どこまでも行きたくなる気持ちよさと、非日常のときめきを感じさせてくれる「スペシャリティスポーツモデル」として、ホンダが開発したコンセプトモデルです。
詳細は発表されていませんが、このコンセプトが実際に市販される場合、ハイブリッドパワートレインを搭載する予定とのことです。しかし、この新しい車両には過去のホンダ・プレリュードとは異なり、マニュアルトランスミッションが搭載される可能性は低いようです。
また、ホンダの電動化担当者である青山真治氏は、ホンダが今後の電動車(EV)用に人工的または模擬的なマニュアルトランスミッションを開発する予定はないことを示唆しました。青山氏は、ホンダがEVの運転を楽しみながらも、マニュアルギアボックス以外の方法で楽しませるアプローチを見つけるであろうと述べています。EVはトルクが高く、加速がスムーズであるため、従来の内燃機関車とは異なるドライビングエクスペリエンスを提供します。そのため、ホンダはEV向けに新しい楽しみ方を模索しているようです。
像出典:Honda