マツダが今、カーデザインを席巻していることは、これまでにも何度かお伝えしてきました。しかし、マツダが今もなお、金属を手で叩いてデザインしていることはご存知でしょうか?古風な手法で、モーガンのようなニッチな小さな自動車メーカーだけが使っているように思えるかもしれませんが、マツダもやっていることなのです。
ただ、マツダでは、数十年前のように木枠の上に金属を叩いて生産するのではなく、設計の初期段階で手打ちの金属加工を行うのが特徴です。
その金属加工を担っているのが、ハードモデラーの川野 穣氏です。匠の技を持つ川野は、マツダでどのような仕事をしているのでしょうか。
デザインを忠実に再現する
18歳で金属加工を始めて以来、川野氏はマツダ社内でさまざまな分野で働いてきました。技能五輪の研修からスタートし、車体製作を経て、マツダのデザイン部門へ。ここで、彼は約40年間、金属加工だけでなく、塗装や縫製の技術を磨いてきました。
マツダのデザイナーは、コンセプトが決まると、クレイモデルやデザインスケッチを川野氏に提出します。そして、金属や樹脂、革などを使って、本物そっくりに仕上げていく。マツダのボディデザインは、光と戯れるようにデザインされているという話は有名ですが、そのデザインを忠実に再現するのが川野氏の仕事です。
また、若い世代のデザイナーやアーティストと協力してアートワークやモデル サンプルを作成したりします。
デジタル化と昔ながらのクラフトマンシップ
川野氏は、マツダのデザインモデリングスタジオで、ハンマーや木槌、板金バサミなどの道具を使って金属板を成形し、コンセプトモデルや市販モデルのインスピレーションとなるオブジェや、後に自動車の一部となる形状に仕上げます。例えば、マツダ3などの内装のクロームメッキやメタルトリムは、川野が自ら叩いて作った金属板から直接インスピレーションを得たものです。
この川野氏の仕事はCX-30のハートビートウインカーと同様、マツダのデザインプロセスにおけるもうひとつの人間的要素であり、マツダの商品企画、デザイン、開発、生産を包括する「ものづくり」の旗印のひとつと言えます。そして何より、デジタル化と昔ながらのクラフトマンシップが共存する現代のクルマづくり、マツダが日本の伝統を守りながら前進していく姿を示しています。
画像出典:マツダ