自動車技術の進歩は、人々の生活に多くの恩恵をもたらしました。ブラインドスポットモニターや自動ブレーキなどの技術により、現代の車両はこれまで以上に安全になり、事故は減り、そして重要なことに、重傷や死亡のリスクも軽減されました。しかし残念ながらハイテク化に伴い、かえって危険を呼んでいる部分もあります。
最近の自動車のもう1つの特徴として注目されるのが、巨大なタッチスクリーンです。見た目は印象的ですっきりした外観を可能にしますが、安全性がそれほど高くない可能性があります。
スウェーデンの自動車雑誌「Vi Bilagare」は2022年に、タッチスクリーンを有する現代の車※と、スクリーンの無い古いボルボ・V70ステーションワゴンを使って、スクリーンは安全性にどのような影響を与えているのか調査しました。
※(BMW iX、ダチア・サンデロ、ヒュンダイ・IONIQ5、メルセデスベンツ・GLB、MG・マーベルR、日産・キャシュカイ、セアト・レオン、スバル・アウトバック、テスラ・モデル3、フォルクスワーゲン・ID.3、VOLVO・C40)
調査内容と結果

調査はとても簡単なものです。ドライバーは時速110kmで走行しながら、ラジオの選局、エアコンの温度調節、トリップコンピューターのリセットなどの簡単な作業を行います。そこで全ての操作が終わるまでの時間や、その間に進んだ距離を計測し、操作の複雑さなどを考慮してスコア化しました。
調査の結果、ボルボ・C40やダチア・サンデロなどの一部の車両は、優れたパフォーマンスを示しました。ドライバーが前述のタスクを実行するのにそれぞれ13.7秒と 13.5秒かかり、最高点5点のうち、ボルボは3.5点、ダチアは 3.75点を獲得しました。
対してフォルクスワーゲン・グループの車のパフォーマンスはあまり良くありませんでした。ID.3はわずか2.25ポイントを獲得し、割り当てられたタスクを完了するのに25.7秒かかりました。セアト・レオン (3.25) は29.3秒かかりました。どちらもタッチセンサー式の空調制御のため、スコアが低かったとの事です。
BMW iXは、非常に複雑なインフォテインメントスクリーンを有しており、ドライバーがこれらの単純なタスクを実行するのに30.4秒を必要としたにもかかわらず、4ポイントを獲得しました。これはいくつかの物理ボタンを備えているためです。
スバル・アウトバック (4.0) と日産・キャシュカイ (4.25) が最高のスコアを獲得しました。ドライバーはすべてを調整するのに、アウトバックは 19.4秒、キャシュカイは 25.1秒かかりました。

この調査で最も結果が悪かったのはMG・マーベルRでした。スコア自体はフォルクスワーゲン・ID.3 よりも高かったものの、タッチスクリーンの配置が悪く、ドライバーはすべてのタスクを実行するのに 44.9秒を要しました。
高速道路では、この44.9秒の間に非常に多くのことが起こる可能性があり、長い時間操作に意識を取られるのは非常に危険な事であり、これは憂慮すべきことです。

対して、メルセデス・ベンツ GLB は、巧みに配置されたスクリーンによって好評を博しました。ドライバーは頭を20度傾けるだけで済みます。
古いボルボが最高スコアを獲得

この実験が示した最も興味深いことは、現代の車は古い車よりも劣っているということです。今回の調査で、デジタルインターフェイスの無い車のベンチマークとして使用され古いボルボ V70 ステーション ワゴンは最高のパフォーマンスを見せました。ドライバーは 4 つのタスクすべてを実行するのにわずか 10秒しかかからず、実質的なボルボの最高スコア4.5を獲得しました。
ドイツで行われた同様の調査では、Mazda3がトップとなりました。同国のアルゲマイナー・ドイツ・オートモービル・クラブ(ADAC)は、Mazda3はタッチスクリーンよりも物理的な制御を優先することにより、このクラスで最も安全なインフォテインメント・システムを備えていると評価しています。
デジタル化の背景と解決策

昨今のデジタル化の背景には、機能や制御がより高度で複雑なものになっている点が挙げられます。
これらの機能を物理ボタンだけで対処するには何個もボタンを用意せねばならず、その機構を一つにまとめるのは大変な作業です。その点タッチスクリーンは大きな画面を1つ設ければ、見た目がすっきりするだけでなく、エアコンやシートヒーター/ベンチレーションなど様々な機能を集約することができます。
しかし、運転中にエアコンなどの操作をする場合は、タッチスクリーンでは視線を道路では無く、スクリーンに向ける必要があるのに対し、物理ボタンは指先から情報を得られるため、ノールックでも操作が可能なので安全と言えます。
DS Automobilesのデザイン責任者であるティエリー・メトロズ氏もこの意見に同意しており、タッチスクリーンは愚かだとも評しています。結局のところ、デジタルスクリーンと物理ボタンのハイブリッドが今のところ最善策かもしれません。
画像出典:vibilagare